歯を抜かない治療

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  1. 「抜かない」治療の前に立ちはだかる保険診療の壁
  2. 保険治療と保険外の治療(自費治療)の違いは何でしょうか
  3. 時間をかけた丁寧な治療
  4. 自費の治療費の仕組み
  5. 時間をかけることで可能となる上質な虫歯治療
  6. 歯を抜く理由、神経を抜く理由
  7. 歯を抜かない、神経を抜かないために必要な五つの要素
  8. 阪大OBによるチーム医療

「抜かない」治療の前に立ちはだかる保険診療の壁

「歯を抜かない」「神経を抜かない」治療方法には、言うまでもなく最新の医療器械と医療材料が必要です。それは、いわばこの治療法のために開発、実用化された特別なツールといえます。歯に悩みを持つ人であれば、誰もがこんな治療を受けたいと望まれることでしょう。しかし、現実には機会に恵まれる人はごく少数なのです。「抜かない」治療の普及を妨げているもの、それは保険診療という大きな壁です。

戦後の日本人の平均寿命は50歳にも満たないものでしたが、今や女性の平均寿命は85歳、男性も80歳を超え、世界でトップレベルの長寿国となりました。上下水道が整備されて衛生状態が改善されたこと、食生活が豊かになったこと、医学をはじめとする科学技術が発展したことなどもその一因でしょう。しかし、何より国民皆保険制度が確立し、誰もが平等に安価で充実した医療を受けられるようになったことこそが、この国を世界一の長寿国にした最大の要因でしょう。平均寿命というデータが、この制度の素晴らしさを如実に物語っています。

しかし皮肉なことに、国民皆保険制度が生み出した長寿社会が今、自らの首を絞めるかのような事態に陥っています。高齢者の人口が増加するにつれて医療費も年々膨れ上がり、国家財政が完全に行き詰まってしまったのです。目下のところ、政府は懸命に医療費抑制に努めていますが、もちろん解決は容易ではありません。

そんな状況はさておき、医療は日進月歩の発展を続けています。その結果、最新の医療技術と医療機械が続々と現場に取り入れられました。しかし、これらの多くは保険診療に組み込まれていないため、十分に機能しているとは言えません。つまり、私たちは医療の発展による恩恵を受けてはいないのです。予算不足から政府が医療費抑制政策を行う限り、歯科の最新治療に保険が適用される見通しは暗いでしょう。このような事情から、最新の治療は保険外診療(自費治療)を余儀なくされているのです。

保険治療と保険外の治療(自費治療)の違いは何でしょうか

まず、セラミッククラウンやゴールドクラウンなど高品質な材料で作られるかぶせ物には、保険は効きません。従って、自費治療となります。

保険診療として認められていない機械を用いると、自費治療となる場合があります。

当院では従来より口臭測定用のBBチェッカー、オーラルクロマ、アテイン、モイスチャーチェッカーといった機械を取り揃えて自費の口臭治療を行ってきましたが、新顔のQrayが仲間入りしました。光を当てるだけで、隠れた虫歯の穴を目で見えるようにする最新鋭の機械です。

このように材料や機械に高価で高品質のものを使用する他、別の理由で自費治療となるケースがあります。それは時間をかけて丁寧に治療するために、保険が効く治療をあえて自費で行う場合です。

保険治療では治療費が安く抑えられているため、どんなに時間をかけて丁寧に治療をしても、それに見合う報酬が得られないという現実があります。労力に見合う報酬を得るためには、適切な治療費を支払っていただく必要があるのです。

時間をかけた丁寧な治療

保険治療では個々の治療に対して一律の保険点数(治療費)が定められているため、治療に時間をかけようがかけまいが、治療費は同額です。極論すると、手抜き治療でも確実に診療報酬が得られるシステムとなっているのです。これが悪徳歯科医をはびこらせる元凶ともいえますが、遵法と勤勉を誇る我が国の歯科医療界では、性善説に基づいた上記のような保険制度が実施されているのです。

確かに、全国一律の医療サービスを提供するためにはこのシステムが便利でしょう。国民皆保険制度はこの国を世界一の長寿国に育て上げました。しかし日進月歩で医療技術が進化する今、高度な治療を時間をかけて丁寧に提供しようとする医療には適さないシステムであるといえます。

虫歯治療の中に「単治・覆髄」というものがあります。虫歯が進行して歯の中の神経までおよぶと、痛みが生じます。そこで虫歯を削り取り、神経を保護する治療が「覆髄」です。虫歯を削る際、虫歯の部分のみを削り取り、虫歯ではない健全な部分まで削らないようにするためには細心の注意が必要です。特に神経に近い部分を削る際には、削りすぎて神経にダメージを与えないように少しずつ慎重に虫歯を取り除いていく必要があります。虫歯の切除後はレジンやグラスアイオノマーセメントを詰めて封鎖しますが、神経を保護するため覆髄剤という薬を使用する場合もあります。

上記の治療は虫歯治療の基本であり、30分以上の治療時間を要します。虫歯を治すためには必要最低限の重要な治療といえますが、治療費が極めて安価なのです。虫歯を削る作業が「齲蝕処置」40点、「覆髄」が25点です。1点が10円なので、歯科医院に入る治療費は計650円となります。当然ながら、本来であれは時間をかけて丁寧に治療すべきですが、この低価格ではとても採算が合いません。結局、そのしわ寄せは患者様に及ぶことになるのです。

歯科治療にはこのように不採算な治療分野が幾つもありますが、根管治療や入れ歯治療もその一端です。虫歯が進行して神経が侵された際、神経を抜く治療が根管治療(歯内療法)ですが、長い時間を要する複雑な治療です。神経を抜いて根管内をきれいに拡大消毒するためには、30分以上の治療が何回も必要となりますが、治療1回当たりの保険点数は26~40点、すなわち400円以下なのです。

このように、然るべき治療を行うほどに医院経営が苦しくなる治療分野が実際にあるのです。労力に見合った妥当な金額に治療費を設定することさえできれば、この問題はたちまち解決するはずですが、1000兆円を超す財政赤字を抱える政府にその力はありません。保険内で治療を行う限り、解決できないのが現状なのです。

現段階での有力な解決策は、患者様に適切な治療費を支払っていただく自費治療を取り入れることです。当クリニックでは、時間をかけた丁寧な虫歯治療を求められる患者様に対して、専用器具を用いた最新かつ高度な虫歯治療や歯内療法を行っています。

自費の治療費の仕組み

当クリニックでは治療に要する時間を一つの目安として、治療費を定めています。例えば「単治・覆髄」の場合、局所麻酔やラバーダム防湿の後に歯科用マイクロスコープ〈顕微鏡〉を使用し、治療のステップごとに写真撮影を行います。

治療後に写真を確認しながら説明する時間を含めて約1時間の治療時間となり、治療費は11,880円となります。

  >> 神経を抜かない虫歯治療 「単治・覆髄」

「単治・覆髄」が成功し、神経を残す治療が可能であると確認できれば、次はレジン充填を行います。レジンとは石油から化学合成されたアクリル樹脂で、虫歯の穴に詰めて光を当てると固まる性質を持っています。ラバーダム防湿の後、歯科用マイクロスコープを用いて1時間から1時間半かけてレジン充填を行います。

治療には保険適応外の高品質なレジン充填剤を使用し、治療費は59,400円となります。

 >> レジン充填

残念ながら、「単治・覆髄」の治療後に痛みが治まらない場合があります。治療の時点ですでに虫歯菌が神経を侵していて回復不能に陥っているケースで、その場合は神経を抜かざるを得ません。歯の神経を抜く治療とは、前述した根管治療です。

神経を抜いた後、神経が入っていた根管を拡大して消毒します。何度か治療を行った後、根管充填剤を詰めて根管治療(歯内療法)が完了します。根管はさまざまな形状を持ち、前歯より臼歯、小臼歯より大臼歯と複雑度が増していきます。

そのため、根管治療の治療費は歯の種類によって異なり、前歯91,300円、小臼歯103,400円、大臼歯112,200円となります。

  >> 根管治療

十分な時間が叶える上質な虫歯治療

虫歯になると歯が黒ずんで穴が開きます。一目瞭然でわかりやすいともいえますが、実際の治療はそう簡単ではありません。虫歯は虫歯の部分と虫歯でない健全な部分に分かれ、この違いを的確に見極めて治療することは容易ではないのです。

虫歯とは元来健康であった歯が虫歯菌の産生する酸で軟らかくなり、徐々に崩壊していく病気です。虫歯でできた穴を削ると、初めは軟らかいものの徐々に硬くなり、さらに削っていくと健全な歯質に達します。ここで削るのをやめる必要がありますが、虫歯になった部分と健全な部分を注意深く見分けないと健全な歯質まで削ってしまうことになります。しかし、削りすぎを恐れると境界付近の虫歯を残してしまうことになるのです。

このように、虫歯の部分と虫歯でない部分を正確に見分け、虫歯の部分だけを削り取る精密な作業が虫歯治療には欠かせません。それには時間をかけて慎重に治療を進めるだけでなく、専用の器材も必要となります。特に歯科用マイクロスコープは細部まで鮮明に視覚化できるため、診断においても治療においても強力なツールであるといえます。

次に、上質な虫歯治療を行うために必要な専用機材について説明します。

>> 上質な虫歯治療を支える専用の機材

歯を抜く理由、神経を抜く理由

一人の人間が健康を害する場合、その理由は大別してけが(外傷)と病気です。同様に、歯を抜く理由や神経を抜く理由にも外傷によるものと病気によるものがあります。

歯を抜く理由

歯の脱臼

交通事故やスポーツの事故、転倒、転落、殴打などの理由により、顎に強い外力が加わると歯牙脱臼(歯が抜けてしまうこと)が起こります。その際、歯を元の位置に戻す再植を行うことにより、抜かずに治癒する場合があります。戻した歯をしばらくの間、周囲の歯と固定します。また、同時に骨(歯槽骨)も折れている場合は骨も元の位置に戻します。

歯根破折

外傷による歯の根のひび割れ、また歯に無用な力が加わることによる食事中の歯根破折など、神経を抜いた歯にはしばしば問題が生じます。歯根破折は通常、抜歯になるケースが多いのですが、破折した部分を接着することにより抜かずに治せる場合もあります。一度歯を抜いて破折した部分を接着し、元の位置に戻す意図的再植法では、破折部の接着にスーパーボンドという接着レジンセメントを使用します。

穿孔

歯の神経を抜いて治療する根管治療(歯内療法)の際に、誤って歯根に穴を開けてしまうのが穿孔です。穿孔が生じると痛みが治まらないため、抜歯せざるを得ないケースが少なくありませんが、MTAというセメントを用いて穿孔部を封鎖する方法で治療することが可能です。

根尖病変

歯の根の先、つまり根尖部の骨が溶け出してしまい、空洞が生じている状態を根尖病変といいます。虫歯が最も進行し、病変部にまで虫歯菌が拡がっている状態です。一度根尖病変が起こると治りにくく、痛みが続く場合は抜歯となりますが、根管治療が成功すれば根尖病変が消えてなくなる場合もあります。

骨縁下カリエス

虫歯が拡大し歯の周囲の歯槽より深く進行すると、詰め物やかぶせ物による治療は困難となります。その際、治せない歯の骨を削ったり、ひっぱり出したりすることにより、治せる可能性が拡がります。歯をひっぱり出す方法には矯正治療と意図的再植術があります。

歯周病

歯がグラグラする主な原因は、歯周病です。歯周病が進行すると歯を支える周囲の歯槽骨が溶けて少なくなり歯が動揺しますが、歯を削って行う咬合調整や歯をつなぎ合わせる歯周補綴により、動揺を少なくすることが可能です。また、溶けた歯槽骨をよみがえらせる歯槽骨再生療法もあります。

抜歯が必要になる場合は以下の通りです。

  • 矯正治療の際の便宜抜歯
  • 審美的な理由による転位歯や変色歯の抜歯
  • インプラント治療や歯周補綴の際の戦略的抜歯
  • 生え変わりの際の乳歯の抜歯
  • 咬合育成のための乳歯の連結抜歯
  • ガン切除の際に安全域を設けるための周辺歯の抜歯
  • 骨膵炎に対する顎骨切除の範囲に含まれる歯の抜歯

神経を抜く理由

歯牙破折

外傷によって歯が欠けたり折れたりする場合があり、折れ方によっては露出した歯の神経を抜く必要に迫られます。その際、MATで神経を保護することにより抜髄を回避することが可能です。また、折れた歯を接着することによる治療法もあります。

中心結節の破折

下顎小臼歯の咬合面には、とんがり状の中心結節が見られる場合があります。中心結節の内部には神経が通っており、硬い食物を噛んだ拍子にこれらが折れると神経が露出します。その際にも、MTAで神経を保護することにより治療することができます。

虫歯の進行

歯の表面の虫歯が深く進行すると神経にまで達し、通常の治療では抜髄を避けられません。そんな場合には、神経を抜かずに保護する覆髄を行います。神経の露出面に薬を付けて保護する方法を間接覆髄といい、暫間的間接覆髄法と3Mix治療法があります。

冠部歯質の喪失

外傷や虫歯により神経は露出していないものの、歯間の大部分が消失してしまう場合があります。その際には、一度神経を抜いてポストコアという土台を入れることにより、かぶせ物(クラウン)を使って本来の歯の形を復元することが可能です。またその他の方法として、接着方法を駆使してレジンで歯の形を再現することも可能です。

歯軸の変更

出っ歯など歯並びや噛み合わせの問題に対しては、かぶせ物(クラウン)を作って入れることで歯の向きを改善できますが、そのために歯の神経を抜く必要に迫られるケースがあります。その際には、矯正治療をすることにより神経を抜かずにクラウンをかぶせることが可能になります。歯並びや噛み合わせの治療法としては、矯正治療を第一に考えるべきでしょう。

歯のホワイトニング

神経がない歯にはしばしば変色が見られますが、歯の内部に過酸化尿素を詰めるウォーキングブリーチという方法で歯を白くすることができます。一方、神経がある歯の変色には、稀にテトラサイクリンという抗生物質の悪影響によるものが見受けられ、強度な変色については治療が難しいとされています。この説に対し、あえて神経を抜きウォーキングブリーチを行うホワイトニング法があります。また、昨今ホワイトニングの技術改良が進む中、神経を抜かないでテトラサイクリン変色歯を治す方法も開発されてきています。

ヘミセクション、トライセクション

大臼歯の根は2本や3本に枝分かれしている場合が多く、複数ある根の一部に歯周病が進行し、周囲の歯槽がなくなっているケースもあります。このような場合には、悪くなった根を選別して抜くヘミセクションやトライセクションという治療法があります。残った根は神経を抜き、クラウンやブリッジを作ってかぶせます。歯槽骨再生療法を行うことにより全ての根を残すことができ、神経を抜く必要もありません

根分岐部病変

大臼歯の根が二つや三つに分かれる付け根の部分を根分岐部といい、この分岐部の骨が溶けてなくなることを根分岐部病変といい、歯周病の特殊例として分類されています。

骨分岐部病変に対する治療は大変困難といえますが、歯を分割してそれぞれの根を独立させる根分割術で治癒する場合もあります。根分割の際には、神経を抜く必要があります。

根分割術以外にはオドントプラスティー、ファーケーションプラスティー、歯槽骨再生療法などの治療法があり、これらは神経を抜く必要がありません。

歯の挺出

歯を抜いた後には、ブリッジや入れ歯を作って欠損部を補う必要があります。歯が抜けたまま放置すると対合歯が伸びる挺出が生じ、挺出した歯があると、欠損部を補う際に挺出歯が邪魔をして治療ができなくなります。挺出した歯を削って短くする場合に、挺出の程度が大きいと必然的に歯を削る量も大きくなるため、神経を抜くことになります。挺出の治療方法には圧下という矯正治療もあり、神経を抜くことを回避できます。

歯を抜かない、神経を抜かないために必要な五つの要素

保険診療の範囲においては「歯を抜くしかない」「神経を抜くしかない」といわれる状況の歯であっても、保険外として検討すれば「抜かずに治す」ことが可能となる場合が少なくありません。ただし、「抜かない治療」を実現するためには、以下に挙げる5要素が必要不可欠です。

十分な治療時間

歯や神経を守る最新の治療法

歯科用マイクロスコープに代表される最新の医療機器

MTAに代表される最新の医療材料

診断能力、治療技術、説明能力といった歯科医師の技量

これらの要素のいずれが欠けても「抜かない治療」は実現しません。時間をかけた丁寧な治療こそが、「抜かない治療」を成功へと導くキーワードなのです。

阪大OBによるチーム医療

ひぐち歯科クリニックに所属する歯科医師は全員が大阪大学歯学部、大学院で教育を受けた後、歯学部附属病院で実際に診療を行ってきた臨床医です。同じ教育を受け、同じ現場で働いた経験から、歯科医師間の治療に対する認識や治療方法にギャップがありません。

大阪大学歯学部付属病院には多数の診療科が置かれ、一人の患者様の治療を各科が分担して専門的な治療を行っています。同様に、ひぐち歯科クリニックにおいても保存科、補綴科、口腔外科など専門の異なる歯科医師がチームを組み、連携しながら上質な治療を提供しています。