「口腔外科・口腔内科 メディカルインフォメーション」代表の樋口均也です。本サイトは、口腔外科と口腔内科の病気および治療法に関する専門的な情報を、わかりやすく説明するために開設しました。
口腔外科・口腔内科が対象とする病気は多種多様で、治療法もたくさんあります。できるだけ多くの情報を提供していく予定ですが、万一ご自身の悩みに該当する情報が見当たらない場合は、「口腔内科相談室」へ お気軽に 質問をお寄せください。
なお、お寄せいただいた質問と当方による回答は、原則として本サイトに掲載いたします。あらかじめご了承ください。
*本サイトは「医療法人慶生会 ひぐち歯科クリニック」(大阪府茨木市)が提供しております。
口腔外科とは?口腔内科とは?
「口腔外科」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。「聞いたことはあるが、どのような診療をしているかは分からない」という方が多いかもしれません。口腔外科は歯科に属する診療分野で、主に手術による治療を行います。
歯科といえばむし歯と歯周病。確かにこの2つは歯科を代表する病気ですが、口の中には他にもさまざまな病気が発生します。むし歯や歯周病以外の病気を担当するのが口腔外科です。
むし歯や歯周病以外の口の中の病気では、口内炎や親知らずの腫れ、痛み(智歯周囲炎)、顎関節症のいずれかを経験された方が多いかもしれません。これらの病気は、まさに口腔外科領域の病気です。舌がんや歯肉がんなどの口の中のがん、顎の骨の骨折、口唇裂などの先天異常、むし歯や歯周病が進行して手術が必要となった場合も口腔外科の出番となります。歯の治療の際、高血圧症や心臓病などの持病のため注意を要する場合もまた、口腔外科が治療を依頼されます。
このように、口腔外科の診療内容はバラエティーに富んでいるといえます。中でも手術が治療の中心に位置付けられる病気・診療は「口腔外科」、手術以外の治療法が中心となるものが「口腔内科」と区別する場合があります。近年増え続けている口腔内科の病気に対しては、問診や臨床検査、心理テスト、薬物療法、理学療法、心理療法、漢方治療など多種多様な治療法の中から症状に応じた方法を選択し、治療を進めていきます。
口腔外科・口腔内科の診療内容
下記の通り口腔外科・口腔内科の診療内容は多岐にわたっており、一般の歯科治療とは内容が異なります。
- 口の中、顎の骨、顎関節、顔面、首の病気の診察
- 検査、診断
- 手術
- 薬による治療
- リハビリ
- 心理テスト、カウンセリング、認知療法、行動療法(心身医学的治療)
- 経過観察、定期検診
- 全身管理
- 全身麻酔
- 他の医療機関との連携
- 治験
- 臨床的研究
口腔外科の病気
良性腫瘍
良性腫瘍は形状が一塊で、徐々に大きくなる性質があり、悪性腫瘍(癌や肉腫)のように周囲の組織に浸潤したり、離れた臓器に転移したりする性質ではありません。血管腫やセメント質腫は大きくなることもなく、同じサイズを保つことも珍しくありません。良性腫瘍は、腫瘍部分と周囲の正常部分の境界部を切開して塊のまま摘出しますが、エナメル上皮腫と角化のう胞性歯原性腫瘍を除いて、再発することはほとんどありません。口の中に発生する良性腫瘍でよく見かけるのは、乳頭腫、多形性腺腫、エナメル上皮腫、セメント質腫、歯牙種、角化のう胞性歯原性腫瘍、血管腫です。
粘膜上皮に発生する良性腫瘍
乳頭腫、腫瘍性エプーリス、母斑
唾液腺組織に発生する良性腫瘍
多形性線種、粘液腫
顎骨に発生する良性腫瘍
エナメル上皮腫、エナメル上皮線維腫、扁平歯原性腫瘍、歯牙腫、石灰化上皮性歯原性腫瘍、セメント芽細胞腫、腺腫様歯原性腫瘍、原始性歯原性腫瘍、歯原性線維腫、歯原性粘液腫、歯原性粘液線維腫、骨腫、軟骨腫、骨軟骨腫、類骨骨腫、骨芽細胞腫、軟骨芽細胞腫、骨形成線維腫、化骨性線維腫、類腱線維腫、軟骨粘液線維腫、セメント質骨形成線維腫、家族性巨大セメント質腫、骨性分離腫、軟骨性分離腫、骨軟骨性分離腫、象牙質形成性幻影細胞腫、上顎体
粘膜下組織に発生する良性腫瘍
線維腫、脂肪腫、血管腫、リンパ管腫、筋腫、顆粒細胞腫、奇形腫、神経鞘(しょう)腫、神経線維腫、黄色腫、角化性棘細胞腫、咬筋勃起性血管腫、glomus腫瘍、異型脂肪腫性腫瘍、骨化性線維粘液性腫瘍
悪性腫瘍
口腔の悪性腫瘍は、発生場所を元にするタイプと病理組織型を元にするタイプがあります。悪性腫瘍の手術は、周囲の正常な組織も含めて大きく切除する方法が基本となります。手術により欠損が生じた組織は、筋肉や骨を移植して再建します。また、手術の前や後に放射線療法や化学療法(抗がん剤)を併用したり、手術による組織欠損を避けるため、手術を行わずに放射線療法や化学療法、免疫療法を選択する場合もあります。腫瘍の進行により手術が不可能である場合は、放射線療法や化学療法、免疫療法を行うことになります。口腔がんで最も多いのは舌がん、かつ扁平上皮癌で、唾液腺がんで最も多いのは腺様のう胞癌です。肉腫では骨肉腫、悪性黒色腫、悪性リンパ腫が比較的多く見られます。
発生場所による分類
上顎歯肉がん、下顎歯肉がん、舌がん、口底がん、頬粘膜がん、口唇がん、上顎洞がん、顎骨中心性がん、口峡がん、口蓋がん、耳下腺がん、小唾液腺がん
病理組織による分類
粘膜上皮に発生するがん
扁平上皮癌、基底細胞癌、疣贅(ゆうぜい)癌、エナメル上皮癌、肉腫様癌(紡錘細胞癌)
唾液腺組織に発生するがん
腺癌、腺様のう胞癌、腺上皮癌、粘表皮癌、悪性多形線種、多形性線種由来癌
顎骨に発生するがん
扁平上皮癌、肉腫様癌(紡錘細胞癌)、明細胞性歯原性癌、幻影細胞性歯原性癌、硬化性歯原性癌、歯原性癌肉腫、粘表皮癌、腺様のう胞癌、粘液腺癌
未分化がん、奇形がん
顎骨に発生する肉腫
骨肉腫、軟骨肉腫、間葉性軟骨肉腫、ユーイング肉腫、歯原性肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、悪性神経鞘腫、悪性線維性組織球腫、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫
粘膜下組織に発生する肉腫
線維肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、悪性血管内皮腫、悪性血管周皮腫、悪性リンパ管内皮腫、悪性黒色腫、悪性神経鞘腫、神経芽細胞腫、カポジ肉腫、がん肉腫
悪性リンパ腫、
のう胞
袋状の病的組織の内部に液体が溜まり、膨らんだものがのう胞です。のう胞は周囲組織から剥離して摘出しますが、周囲の神経や血管を傷つける可能性がある場合は、嚢胞の一部を切り取る開窓術を行う場合があります。口の中にできるのう胞でよく見かけるのは、歯根のう胞、粘液のう胞、ガマ腫です。
顎骨に発生するのう胞
歯根のう胞、炎症性傍側性のう胞、含歯性のう胞、歯原性角化のう胞、石灰化歯原性のう胞、腺性歯原性のう胞、球状上顎のう胞、鼻口蓋管のう胞、脈瘤性骨のう胞、単純性骨のう胞、
軟組織に発生するのう胞
鼻歯槽のう胞、歯肉のう胞、粘液のう胞、ガマ腫、類皮のう胞、類表皮のう胞、甲状舌管のう胞、リンパ上皮腫のう胞、鰓原のう胞、術後性上顎のう胞、萌出のう胞、残留のう胞、側方性歯周囊胞、ブドウ状歯原性囊胞、ホフラートのう胞
形態異常・形成障害
生まれつき口や顔の形の異常がある形態異常(先天奇形)で比較的よく見られるのは、口唇裂、口蓋裂、ダウン症候群です。成長過程で問題が現れる形成障害で比較的よく見られるのは、舌小帯強直症、上唇小帯付着位置異常、下顎前突症、上顎前突症、顎変形症、開咬症です。
先天的な形態異常
みつくち(口唇裂)、口蓋裂、正中唇裂、斜顔裂、横顔裂、両眼隔離、上顎体、鎖骨頭蓋遺骨症、スタージ・ウェーバー症候群、鎖骨頭蓋異骨症、ガードナー症候群、口腔・顔面・趾症候群、ダウン症候群、エドワード症候群、尖頭合指症、クルーゾン病、歌舞伎メーキャップ症候群、第1鰓弓症候群、外胚葉異型性症候群、ムコ多糖症(ガーゴイリズム)、大理石骨病、ケルビズム、ピクノディスオストーシス、ポイツ・ジェエーガース症候群、カムラチ・エンゲルマン病、基底細胞母斑症候群、ピエール・ロバン症候群、トレジャー・コリンズ症候群、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群、耳・口蓋・趾症候群、動静脈奇形。静脈奇形(海綿状血管腫)
後天的な形成障害
巨舌症、舌小帯強直症、上唇小帯付着位置異常、受け口(下顎前突症)、上顎前突症、顎変形症、小顎症、下顎非対称、開咬症、茎状突起過長症、筋突起過形成、顔面半側萎縮症、顔面半側肥大症、咬筋肥大症、先端肥大症、骨形成不全症、繊維骨異形成症、セメント質骨性異形成症、咀嚼筋腱・腱膜過形成、静止性骨空洞、上顎洞口腔瘻孔、フライ症候群、上皮真珠、骨パジェット病、アジソン病、静脈性血管瘤
外傷
下に紹介した外傷はいずれも比較的多く見かけるものです。外傷により傷ついたり変形したりした組織に対して、保護したり修復したりする方法はそれぞれで異なります。顎骨骨折の場合は顎間固定を行い、骨折部分を整復して金属プレートなどで固定します。歯牙外傷や歯牙破折の場合は歯を元の形に復元したり、元の位置に整復固定したりします。口腔粘膜の傷に対しては保護、あるいは縫合を行います。
硬組織の外傷
下顎骨骨折、顔面骨骨折、歯牙破折、歯牙脱臼、歯槽突起骨折、外傷性顎関節炎
軟組織の外傷
裂傷、切創、刺創、やけど(火傷、熱傷)、凍傷、打撲、褥創(じょくそう)性潰瘍、リガ・フェーデ病、ベドナーアフタ、外傷性仮骨性筋炎、外傷性界面静脈洞瘻
炎症(感染症)
口腔内の炎症は細菌感染が主な原因です。他には、真菌感染、ウイルス感染、外力による外傷、温熱刺激(火傷)、義歯や矯正装置による刺激などで生じます。口腔内の炎症で比較的よく見かけるのは、智歯周囲炎、歯周炎、インプラント周囲炎、顎骨骨髄炎、歯性上顎洞炎、化膿性肉芽腫、耳下腺炎、顎下線炎、唾石症です。
歯の周囲の炎症
親知らず(智歯周囲炎)、歯周炎、歯槽骨炎、インプラント周囲炎、歯根肉芽腫、根尖膿瘍、炎症性エプーリス、外歯瘻(ろう)
顎骨の炎症
顎骨骨炎、顎骨骨髄炎、顎骨骨膜炎、ページェット骨病、歯性上顎洞炎、外傷性顎関節炎、化膿性顎関節炎、ハンド・シューラー・クリスチャン病、レテラー・シーベ病、好酸性肉芽腫、中心性巨細胞肉芽腫
軟組織の炎症
蜂窩織(ほうかしき)炎、歯性扁桃周囲炎、化膿性肉芽腫、木村氏病、水癌、ベゲナー肉芽腫、耳下腺炎、顎下線炎、導管炎、唾石症、周辺性巨細胞肉芽腫
顎関節疾患
顎関節とは、下顎骨の下顎突起および側頭骨の下顎窩部分の関節を指し、他の関節とは異なる特徴を持っています。関節は骨と骨が近接している部分で、通常は遠位側にある骨が回転運動や回旋運動をしますが、顎関節は回転運動と回旋運動に加え、下顎突起が前方に滑走運動することが可能なのです。顎関節の動きや形態に異常が現れた場合は手術による治療を行いますが、表面に走行している顔面神経を傷つけないよう細心の注意が必要です。
顎関節強直症、顎関節脱臼、顎関節の骨腫や滑膜炎、滑膜性骨軟骨腫症、咀嚼筋腱・腱膜過形成症、線維性咀嚼筋拘縮
唾液腺疾患
口腔内外には大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と小唾液腺(口唇線、口蓋腺、舌腺、臼歯腺、頬腺)があります。唾液腺やその導管に異常が生じる病気を唾液腺疾患といいます。
唾石症、粘液のう胞、ガマ腫、先天性唾液瘻(ろう)、フライ症候群、ファーストバイト症候群、耳下腺炎、顎下線炎、導管炎
口腔内科の病気
口腔粘膜疾患
口腔粘膜に何らかの異常が生じる病気を口腔粘膜疾患といいます。原因が口腔内にあり、症状も口腔内に限局するケースが多数を占めていますが、中には内臓など内科領域の問題により口腔内に症状が現れたり、口腔にも内臓や皮膚など他の臓器にも同時に症状が現れたりするものもあります。口腔疾患でよく見かけるものは、アフタ性口内炎、口腔カンジダ症、白板症、扁平苔癬、舌痛症、味覚異常、口臭、口腔異常感症です。
主に舌に生じるもの
地図状舌、正中菱形舌炎、溝状舌、ハンター舌炎、プランマー・ヴィンソン症候群、黒毛舌、舌痛症、口腔灼熱症候群
主に口唇に生じるもの
接触性口唇炎、光線性口唇炎、剥奪性口唇炎、腺性口唇炎、メルカーソン・ローゼンタール症候群、口角炎、クインケ浮腫、肉芽腫性口唇炎
口腔内のあちこちに生じるもの
アフタ性口内炎、ニコチン性口内炎、剥離性口内炎、壊疽性口内炎、潰瘍性口内炎、紅斑性口内炎、接触性口内炎、ベーチェット病、扁平苔癬(たいせん)、苔癬様反応、固定薬疹、天疱瘡、類天疱瘡、腫瘍随伴性天疱瘡、多形性浸出性紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、ライル症候群、円板状エリテマトーデス、全身性紅斑性狼瘡、口腔白板症、紅板症、剥離性歯肉炎、歯科金属アレルギー、口腔白色水腫、フォーダイス顆粒、歯きしり症、白色海綿状母斑、慢性粘膜皮膚カンジダ症、毛状白板症、ニコチン性口蓋白色角化症、擦過性角化症、日光角化症、表皮水疱症、味覚異常、口臭、口腔異常感症、ドライマウス、シェ-グレン症候群
唾液腺疾患
外傷性導管炎、外傷性唾液瘻、唾液腺炎、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、ドライマウス、シェーグレン症候群、耳下腺炎、顎下線炎、導管炎、唾液腺がん、唾液腺腫、腺リンパ腫(ワルチン腫瘍)、ミクリッツ病、抗Ig-G4関連症候群、キュットナー腫瘍、ヘールフォルト症候群
口腔顔面痛
歯や顎、顔面に痛みが生じる口腔顔面痛は、むし歯や歯周病による痛みと区別がつきにくく、診断が遅れることも少なくありません。歯を治療しても、いつまでも痛みが続くことが特徴です。口腔顔面痛でよく見かけるのは、筋・筋膜性疼痛、非定型歯痛、神経障害性疼痛、副鼻腔炎、疼痛性障害です。
筋・筋膜性疼痛、非定型歯痛、非定型顔面痛、神経障害性疼痛、心原性歯痛、顔面片頭痛、群発頭痛、発作性片側頭痛、結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)、歯性上顎洞炎、副鼻腔炎、三叉神経痛、持続性顔面痛を伴う典型的三叉神経痛、舌咽神経痛、帯状疱疹後神経痛、疼痛性障害、視床痛
顎関節疾患
顎関節症、関節ねずみ、顎関節炎、顎関節の骨腫や滑膜炎、特発性下顎頭吸収
神経疾患
口腔内外を走行する神経は、末梢の知覚や味覚を中枢に伝える求心性神経の他、中枢からの指令を筋肉や唾液腺に伝え、運動や唾液の分泌をつかさどる遠心性神経があります。前者は三叉神経、舌咽神経、後者は顔面神経、舌下神経、副神経です。
顔面神経麻痺、三叉神経麻痺、舌咽神経麻痺、舌下神経麻痺、三叉神経痛、舌咽神経痛、迷走神経痛、顔面チック、オーラルジスキネジア、オーラルジストニア、カウザルギー、切断神経腫、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症、頸・舌症候群、帯状疱疹後神経痛
心身医学的な病気
むし歯や歯周病、顎関節症、ドライマウスなど、口の中に病気が生じると日常生活にさまざまな支障が生じ、精神的に不安や抑うつなどの症状が現れ、心身両面で問題を抱えることも珍しくありません。逆に、ストレスなど生活上の心理的な問題が原因で口腔内外に症状が現れる場合もあります。近年の歯科医療は、このような心身両面の問題に対処する必要に迫られています。心身医学的な問題でよく見られるのは、歯科治療恐怖症、口臭恐怖症、噛みしめ呑気症候群、咬合異常感症、口腔異常感症、身体症状症です。主な治療法として薬物療法と認知行動療法があります。
口腔心身症、歯科治療恐怖症、噛みしめ呑気症候群、咬合異常感症、口腔異常感症、咽喉頭異常感症、口腔粘膜や咬合の違和感、口腔セネストパチー、口臭恐怖症、異常絞扼反射(嘔吐反射)、身体症状症、人格障害、不安障害、気分障害、適応障害、唾液嚥下障害
炎症(感染症)
ヘルペス性歯肉口内炎、放線菌症、猫ひっかき病、サルコイドーシス、口腔結核、口腔梅毒、口腔カンジダ症、鵞口瘡(がこうそう)、いちご状舌、手足口病、コプリック斑、顎下リンパ節炎、破傷風、ヘルパンギーナ、帯状疱疹(たいじょうほうしん)、口唇ヘルペス、ラムゼイ・ハント症候群、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、ヴィンセントアンギーナ、側頭動脈炎、アミロイドーシス、ウイルス性歯髄炎、キャッスルマン症候群
悪性腫瘍
歯肉出血が初発症状として見られる白血病
口腔外科の手術
口腔がん
口腔外科の手術中、最も大がかりで時間を要する手術が口腔がんの手術です。通常は全身麻酔下で手術を行い、組織再建のために血管を吻合する場合は顕微鏡を使用します。手術によっては口腔外科だけでなく、耳鼻咽喉科や眼科、脳神経外科と共同で手術を行う場合もあります。また、腫瘍を切除するチームと血管柄付き筋皮弁や血管柄付き骨弁を採取するチームに分かれ、同時に手術を進めていく場合もあります。
口腔がんに対する手術は多種多様ですが、手術の対象部位は主に口腔内の原発巣とリンパ節転移がある場合の頸部となります。
原発巣は安全域を設け、周囲の正常な部分を含めて切除します。舌がんは切除する範囲の大きさにより舌部分切除術、舌亜全摘術、舌全摘術を行います。歯肉がんでは歯や顎骨も含めて切除し、顎骨の切除範囲により顎骨区域切除術、顎骨連続離断術、顎骨半側切除術を行います。
一方、頸部リンパ節転移に対しては頚部郭清術かリンパ節摘出術を行いますが、廓清範囲に応じて肩甲舌骨筋上頸部郭清術か全頚部郭清術を選択します。
当然のことながら、原発巣を切除すると大きな欠損が生じます。進行がんでは皮膚切除や眼球摘出を必要とする場合もあり、欠損部を補うために形態や機能を再建する手術が行われます。腫瘍病巣は口腔外科で切除し、再建は形成外科、また腫瘍壅掻は耳鼻咽喉科で切除し、再建は口腔外科で行う場合もあります。
舌や頬部、口唇などの軟組織の欠損に対しては前腕皮弁、腹直筋皮弁、前外側大腿皮弁、大胸筋皮弁、D-P皮弁、前頭皮弁などを用います。また、顎骨欠損に対しては肩甲骨皮弁、腓骨皮弁、腸骨皮弁などを用います。大胸筋皮弁、D-P皮弁、前頭皮弁は有茎皮弁ですが、他の全ては血管柄付き遊離皮弁となり、顕微鏡視下で外頸動脈などの血管とつなぎ合わせます。遊離皮膚移植や遊離骨移植、遊離脂肪移植により粘膜、皮膚、骨の欠損部を補う場合もあります。手術で神経を切断した場合には、神経移植術を行う場合があります。
顎骨骨折、歯牙外傷、軟組織外傷
骨折の多くは整形外科で治療しますが、顎骨や顔面の骨の骨折は口腔外科で治療します。骨折に対しては折れて元の位置からずれた骨を正しい位置に戻し、二度とずれないように固定します。骨折していても骨がずれていない場合は固定せず、そのまま自然治癒を待つ場合もあります。
上顎骨と下顎骨の骨折に対しては、観血的整復固定術を行います。固定にはチタンや生体吸収性ポリマーのプレート、スクリューを用いますが、ステンレス製のワイヤーやチタン製のピンで固定する場合もあります。観血的整復固定術の他、多くの場合に顎間固定術を行います。眼窩底部の吹き抜け骨折の場合は、上顎洞内にバルーンを留置して骨折部を固定する方法もあります。上顎骨折の場合は上顎骨以外に頬骨、鼻骨、側頭骨なども骨折していることが多く、その際は眼科や脳神経外科などと共同で手術を行います。
歯牙脱臼の場合は再植し、周囲の歯と暫間固定します。口腔外科以外の一般歯科でも行います。歯槽骨骨折を伴う場合は整復固定術も併せて行います。
口腔粘膜裂傷などの外傷に対しては縫合術を行いますが、必要に応じてデブライドメント、筋層縫合、粘膜移植、遊離皮膚移植も行います。
先天異常、顎変形症
口腔外科の手術の多くは機能の回復と、腫瘍病巣や感染源を取り除くことを目的としています。ただし、口唇裂は一目でわかるため、口腔外科の手術の中でも特に外見の回復が重要となります。その際、唇のどのような動きでも自然に見えるような改善を心がけることは言うまでもありません。
口唇裂、口蓋裂に対しては、発達段階に応じて多様な手術が行われています。口唇裂は乳児期にテニソン法、ミラード法、マンチェスター法、クローニン法などの口唇閉鎖術を行います。口蓋裂は幼児期にプッシュバック法、ファーロー法などの口蓋閉鎖術を行います。顎裂部に対しては小学生の間に骨移植術を行いますが、骨延長術を併用したり、口蓋残遺孔を有茎舌弁移植術で閉鎖する場合もあります。鼻咽腔閉鎖不全に対しては咽頭弁移植術を行い、唇裂鼻に対しては口唇外鼻修正術を行います。その際、耳介軟骨を移植する場合があります。上顎劣成長に対しては成人期に上顎骨骨切り術を行って前方に移動させますが、下顎骨骨切り術を併せて行う場合もあります。
下顎前突による反対咬合、上顎前突、下顔面非対称などの顎変形症に対しては上顎骨骨切り術、下顎骨骨切り術、顎骨延長術、皮質骨骨切り術、オトガイ形成術などを行います。これらの治療は噛み合わせの変化を伴うため、口腔外科と矯正歯科が共同で治療を進めます。
むし歯、歯周病、親知らず
むし歯が進行して生じた根尖病変(歯根嚢胞や歯根肉芽腫など)に対しては歯根端切除術や意図的再植術を行います。これらの治療は一般の歯科だけでなく、口腔外科でも行います。さらにむし歯が進行し、次に挙げるような諸問題が生じた場合は口腔外科が担当します。根尖病変から顔面や頸部の皮膚に外歯瘻ができた場合は、瘻孔閉鎖術や瘢痕摘出術を行います。むし歯菌が顎骨で繁殖し、顎骨骨髄炎が生じた場合は腐骨除去術、皮質骨除去術、皿状形成術、顎骨切除術などを行います。また、むし歯菌が顔面、咽頭、頸部などの軟組織に進展して膿瘍や蜂窩織炎が生じた場合は、膿瘍切開術を行います。
歯周病が進行して深い骨欠損が生じた場合は歯周外科手術を基本に、歯肉移植術、骨移植術を併せて行う場合があります。これらの治療は一般の歯科で行いますが、口腔外科でも行います。
埋伏状態もしくは半埋伏状態の親知らずに対しては埋伏智歯抜歯術、歯冠切除術、歯肉弁切除術のいずれかを行います。治療は一般の歯科、口腔外科のいずれでも行いますが、口腔外科に紹介されるケースが多いといえます。
歯の欠損
歯が欠損している部分にインプラント埋入術や歯牙移植術を行います。インプラント埋入と併せて歯肉移植術、骨移植術、骨延長術、上顎洞底挙上術、下歯槽神経移動術を行う場合もあります。歯肉移植術、骨移植術は一般の歯科でも行いますが、それ以外の手術は口腔外科で行います。
義歯の作成や調整は一般の歯科で行いますが、顎の骨が高度にやせていたり(顎堤吸収)、粘膜の状態が不良である場合は、義歯の作成前に顎堤の形態や粘膜の状態を整える手術を口腔外科で行います。具体的には骨移植術、骨隆起除去術、口腔前庭拡張術、小帯延長術、浮動粘膜除去術、上顎結節形成術などがあります。
顎関節疾患
顎関節症に対しては鏡視下剥離授動術、鏡視下円板固定術、鏡視下円板除去術、鏡視下関節形成術を行います。習慣性顎関節脱臼には関節前方障害形成術、口腔粘膜縫縮術、関節結節切除術、外側翼突筋切離術などを行います。
顎関節の周辺には顔面神経の枝が何本も拡がって走行していることから、顎関節の手術により顔面の神経が傷つき、顔面の動作に支障をきたす恐れがあります。顔面神経の損傷を避けるためにも、顎関節に対しては内視鏡を用いた手術が推奨されます。