「歯を抜かない」「神経を抜かない」治療方法には、言うまでもなく最新の医療器械と医療材料が必要です。それは、いわばこの治療法のために開発、実用化された特別なツールといえます。歯に悩みを持つ人であれば、誰もがこんな治療を受けたいと望まれることでしょう。しかし、現実には機会に恵まれる人はごく少数なのです。「抜かない」治療の普及を妨げているもの、それは保険診療という大きな壁です。
戦後の日本人の平均寿命は50歳にも満たないものでしたが、今や女性の平均寿命は85歳、男性も80歳を超え、世界でトップレベルの長寿国となりました。上下水道が整備されて衛生状態が改善されたこと、食生活が豊かになったこと、医学をはじめとする科学技術が発展したことなどもその一因でしょう。しかし、何より国民皆保険制度が確立し、誰もが平等に安価で充実した医療を受けられるようになったことこそが、この国を世界一の長寿国にした最大の要因でしょう。平均寿命というデータが、この制度の素晴らしさを如実に物語っています。
しかし皮肉なことに、国民皆保険制度が生み出した長寿社会が今、自らの首を絞めるかのような事態に陥っています。高齢者の人口が増加するにつれて医療費も年々膨れ上がり、国家財政が完全に行き詰まってしまったのです。目下のところ、政府は懸命に医療費抑制に努めていますが、もちろん解決は容易ではありません。
そんな状況はさておき、医療は日進月歩の発展を続けています。その結果、最新の医療技術と医療機械が続々と現場に取り入れられました。しかし、これらの多くは保険診療に組み込まれていないため、十分に機能しているとは言えません。つまり、私たちは医療の発展による恩恵を受けてはいないのです。予算不足から政府が医療費抑制政策を行う限り、歯科の最新治療に保険が適用される見通しは暗いでしょう。このような事情から、最新の治療は保険外診療(自費治療)を余儀なくされているのです。