ドライマウスが起こる背景には、口腔粘膜疾患の他にも多種多様な病気が複合的に関連しています。たとえば糖尿病では唾液の分泌量が減ることから口腔が乾燥し、中高年では更年期障害に起因する場合もあり、高齢者は咀しゃく力の低下から唾液量が減ることでドライマウスが起こりやすいといわれています。また、薬物の副作用や現代社会に特有のストレスも指摘されています。たとえば高血圧症に対する降圧薬や抗ヒスタミン薬、抗うつ薬や睡眠導入剤、あるいは尿失禁治療薬などはその薬理作用からドライマウスを誘発します。その他、10代の若年層がかかえる受験ストレスやファーストフードの蔓延による食生活の変化もまた、ドライマウスの原因となっています。従って、治療にあたってはドライマウスへの対症療法の他、食事や運動などの生活指導、また場合によっては心療内科的なアプローチも必要となります。このようにドライマウスは、広い意味でいわば現代社会を反映した病気であるといえるのです。
また、ドライマウスは数多くの原因によって発症し、それぞれの原因が複合的に絡みあっているだけでなく、ドライマウスという症状そのものが他の二次的な病気を引き起こす誘因となることが特徴です。たとえば、高齢者のドライマウスでは口腔内の不快感や口臭だけでなく、食事や飲み込みの機能が低下することから誤嚥性肺炎や上部消化器の障害の原因となります。しかしながら、摂食・嚥下機能は全身状態に大きく影響することから、肺炎の感染率が高くなると唾液量の低下への対応は重要課題です。また、口腔の不快感や口臭は精神的な不安定感を引き起こしやすくもなります。他にも虫歯や歯周病、口腔カンジダ症、味覚異常などもまた、ドライマウスのために生じ得る病気であるといえます。