歯学部附属病院には歯が生える前の赤ちゃんが入院してきます。口唇裂の手術を受けるためです。上顎の部分が裂けている口蓋裂も手術が必要です。口蓋裂を放置すると口と鼻がつながったままとなり、授乳、摂食、構音に問題が生じるからです。
口蓋裂を閉鎖するだけでは飲食や構音に問題が残ります。飲食物を飲み込む際は軟口蓋が挙上して咽頭孔壁に付き、鼻咽腔が閉鎖されます。口蓋閉鎖術だけでは鼻咽腔閉鎖不全が解消されないため、飲食や構音が正常にできない状態が残ります。そのために口蓋閉鎖術ではなく、鼻咽腔閉鎖機能を(一部ではありますが)回復させる口蓋形成術が必要となります。
私が学生時代にはプッシュバック法を中心に習いました。口腔外科に医局に入った後もプッシュバック法ばかりで、私もそれを習い覚えました。プッシュバック法は硬口蓋全体に粘膜骨膜弁を形成し、軟口蓋の披裂縁にまで切開を延長します。硬口蓋部は鼻中隔の中の鋤骨を覆う粘膜を切開して鋤骨弁を作成し、披裂縁の粘膜と縫合して鼻腔側の粘膜を閉鎖します。軟口蓋部にZ形成術を加えて後方に延長して縫合し、鼻腔側を閉鎖します。さらに左右に分離している口蓋帆挙筋をつなぎ合わせます。大口蓋神経血管束の周囲を切開剥離して口蓋弁の可動範囲を拡大し、口腔弁を後方に移動させて縫合し、口腔粘膜を閉鎖します。
プッシュバック法により口蓋裂の閉鎖と鼻咽腔閉鎖ができますが、問題点もあります。骨膜を剥離することと、硬口蓋部に粘膜で覆われていないraw surfaceが生じることで顎発育が抑制され、叢生、狭窄歯列、反対咬合の原因となることです。
当時、軟口蓋の形成と硬口蓋の形成の2つの時期に分けて行うPerko法やFurlow法もありました。この論文ではTwo-flap変法が紹介されています。Two-flap法はプッシュバック法とよく似た口蓋弁を形成し、口蓋弁は後方に移動させない方法です。変法では軟口蓋の鼻腔側粘膜にZ形成術を加えて後方に延長して縫合します。Two-flap法はraw surfaceを作らないという利点があります。しかし、変法であっても後方への移動量が少ないために鼻咽腔閉鎖は劣ると思います。また、術後に瘻孔が生じやすいのではないかと思います。