実は歯の表面に付着するプラークの中は、他とは異なるpHの変動が見られるのです。プラーク(歯垢)とは、ミュータンス菌が砂糖を多糖体という物質に変化させたものですが、原料が砂糖であるためベタベタした形状を持ち、つるつるの歯の表面に簡単に付着することができます。このようにして発生したプラークはバイオフィルムともいい、ミュータンス菌の住み家となります。因みに、プラークはミュータンス菌のみならず、乳酸菌や緑膿菌、スピロヘータ、カンジダ菌などさまざまな菌の集合体で、とりわけ嫌気性菌群は重度の歯周病や口臭の原因となる悪玉菌です。
通常、プラークの中ではpHの変動がぐっと遅くなります。1940年代にステファンが行った有名な実験は、オレンジジュースを飲んだ後のプラーク中のpHが変化する様子を調べるというものでした。ジュースを飲んだ直後のpHは3まで下がり、その後ゆっくりと1時間かけて中性に戻りました。この変化を線グラフにしたものがステファンカーブです。ここでpH5.5という重要な数値を覚えてください。歯が溶けだすpHがこれです。つまり、pHが5.5より低くなる(酸性になる)と歯が溶け出すということです。ステファンカーブの前半、pH4.5~pH5.5の部分は歯が溶けている時間帯を意味し、この時間帯が何度も繰り返されることによって歯に穴が開き、虫歯ができるのです。
ミカンやオレンジジュース、酢の物は誰でも口にする食べ物ですが、酸っぱいものを食べ続けても、それだけでは虫歯になりません。もし徐々に歯に穴が開いて虫歯になるとしたら、誰も酸性の食品を口にしなくなるでしょう。