尖った歯と口腔癌
歯が欠けたり詰めものが取れたりして歯が尖った状態になると、接触した口腔粘膜が傷ついて痛みが生じます。「このような傷が繰り返しできると癌になるのでは」と心配し、来院される患者さんもいます。
その種の傷が原因で口腔癌が生じた可能性のある患者さんは確かにいますが、その一方で何度傷ができても癌にならない患者さんの方が圧倒的多数でもあります。口の中に繰り返しできる傷は、癌の原因になり得るのでしょうか。
実は、疑問への回答となる研究成果がインド・ムンバイの頭頸部癌センターから発表されました。「歯牙外傷」「粘膜損傷」「口腔癌」などのキーワードを用いて抽出した22本の論文を元にしたシステマティック・レビューです。
その結果、尖った歯や欠けた歯が口腔癌のリスク因子となる証拠は見当たらなかったということです。即ち、歯に異常があっても粘膜が繰り返し傷ついたとしても、そのために癌になるわけではないということです。
不適合な義歯と口腔癌
義歯がぴったりフィットしていると何でもよく噛めるため、失った歯の代わりをしっかりと果たしてくれますが、義歯が合わなくてがたついてくると粘膜に傷が付き、痛くて噛めません。このような状態が続くと癌が生じる恐れがあるといわれますが、果たして本当でしょうか。
ムンバイ頭頸部癌センターのシステマティック・レビューでは、不適合な義歯は口腔癌のリスク因子であると判明しています。即ち、義歯の不適合やがたつきによる傷は将来的に癌を引き起こす可能性があるということです。
当然のことながら、合う義歯は永く使い続けても発癌のリスクを増加させることはありません。義歯の材料の違いによる差もなく、特定の材料が発癌に関係することもありません。
インプラントと口腔癌
歯を失った部分にインプラントを埋入し、その上にクラウンを被せると以前のように噛めるようになります。インプラントの埋入箇所に丈夫な歯肉が残っていない場合は、歯肉を移植することにより、見た目もよく歯磨きもしやすい歯肉を作ることができます。また、骨がない場合は骨移植や骨延長術を行うことにより、インプラントを支えることが可能となります。
ただし、このような治療は手術が何度も必要となります。度重なる粘膜の傷により、口腔癌が生じる心配はないのでしょうか。ムンバイの頭頸部癌センターのシステマティック・レビューによると、インプラントが発癌に関与する証拠は見当たらないということです。
Hitesh Rajendra Singhvi, Akshat Malik, Pankaj Chaturvedi: The role of chronic mucosal trauma in oral cancer: A review of literature. Indian Journal of Medical and Paediatric Oncology.