特別講演で安井廣廸先生が漢方薬を用いる状況を四つに分けて解説されました。
1. 漢方治療の方が西洋医学的標準治療よりも優れている場合
こむらがえり 芍薬甘草湯
認知症に伴う行動・心理症状 抑肝散
インフルエンザの初期 麻黄湯
急性胃腸炎の初期 五苓散
血球貪食症候群 小柴胡湯
2. 漢方治療と西洋医学的標準治療との併用で両者の効果を増強する場合
片頭痛 トリプタン製剤と呉茱萸湯の併用
三叉神経痛 テグレトールと五苓散の併用
大腸憩室炎 抗菌材と大黄牡丹皮湯の併用
関節リウマチ MTXと防已黄耆湯の併用
3. 漢方治療を併用することで西洋医学的標準治療の副作用を軽減させる場合
がん化学療法に対する副作用
口腔粘膜炎 半夏瀉心湯
四肢のしびれ 牛車腎気丸
食欲不振 六君子湯
倦怠感 補中益気湯
骨髄抑制 十全大補湯、人参養栄湯
4. 西洋医学的標準治療が行えないものに対し漢方薬を投与する場合
抗アレルギー薬が副作用による眠気のために使えない
アレルギー性鼻炎 小柴胡湯加附子
非ステロイド性消炎鎮痛剤(MSAID)による喘息
発熱、感冒、腰痛 桂枝湯と越婢加朮湯
これらは医学的理由で漢方薬を用いる状況の分類です。漢方薬を用いる理由には医学的理由以外にもあります。
1. 経済的理由
西洋医学的標準治療に用いる薬剤と漢方薬を比べると、漢方薬の方がかなり安いといえます。漢方薬を処方する場合は高額な検査も必要ありません。体のさまざまな病気を1つの漢方薬で治すことができる場合もあり、その点でも治療費が安くなります。薬の種類を減らせるという点は多数の薬を服用するよりも副作用が出にくく、漢方薬を用いる医学的な理由ともなります。
2. 患者の趣向性
漢方薬は数千年前から実際に使用されてきた歴史があり、未知の副作用が生じる心配がほとんどありません。また、副作用自体が生じにくく、重篤なものが少ないという安心感もあります。「天然成分」「医食同源」といった健康志向の患者の趣向性にもマッチします。