三叉神経(trigeminal nerve)は顔面の感覚(知覚)と開閉口筋群の運動をつかさどる神経を指し、眼神経、上顎神経、下顎神経の3本に枝分かれして顔面に広がることから、三叉神経の名がついています。
Trigeminal trophic syndrome(TTS)は三叉神経の損傷後、その支配領域に潰瘍が生じる病気です。小鼻(鼻翼基部)に好発して潰瘍が拡がり、鼻翼基部が欠損してしまうのが典型的な症状で、三叉神経障害後に持続する違和感や掻痒感のために皮膚を掻き毟ることから、潰瘍が生じると考えられています。また潰瘍ができる理由として、三叉神経とともに障害を受けた交感神経の影響による血管障害が関係しているとの説もあります。
治療に際しては、掻き毟ることが病状を悪化させることをよく理解し、何より掻かないように我慢することが重要です。掻痒感に対しては抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、神経ブロック、イオントフォレーシスなどが試みられていますが、今のところ決定的な治療法はありません。
TTSについて中医学的に治療した報告例では、肝陰虚→肝陽上亢→肝風→煩躁(掻痒感)の順で進行すると推測されています。肝陰虚に対しては六味丸、煩躁に対しては酸棗仁湯を組み合わせて70日間処方したところ潰瘍が消失し、治療後も再発は認められていません。