成人が歯科治療恐怖症にかかる割合(罹患率)は15%前後(12.5%~16.4%)、小児の罹患率は5%~29%です。歯科治療恐怖症になるきっかけは、小児期か青年期に体験した歯科治療の痛みにあります。知識不足、痛みの感じやすさ、不安や嫌悪過敏症を持つ人に多く見られ、家族的、文化的な背景が後押しして発症します。さらに痛みの経験を繰り返すと、歯科治療を避けるようになり、必然的に口腔衛生状態が悪化します。歯科に対するマイナスのイメージはますます増強され、治療が必要なのに足を運ぶことができないという悪循環に陥ります。文献によると、若年者に対して用いられた心理療法はモデリング、コーピング、認知行動療法、言葉、静止画像、動画による説明、Tell-show-do、気をそらす、注意を制御する、脱感作、リラクセーション、行動リハーサルなどでした。
Seligman, L. D., Hovey, J. D., Chacon, K., & Ollendick, T. H. (2017). Dental anxiety: An understudied problem in youth. Clinical psychology review, 55, 25-40.
160名の7歳児を2年間追跡調査し、歯科治療恐怖症にどのような変化が現れるのかを調査しました。歯科版小児恐怖調査票(CFSS-DS)を用い、両親に記入してもらったところ、7歳の時点ではCFSS-DSで7%の子どもに歯科治療恐怖症がみられ、その尺度は22.9点、9歳の時点ではCFSS-DSで8%の子どもに歯科治療恐怖症がみられ、その尺度は25.4点でした。つまり、7歳から9歳になるまでに歯科治療恐怖が増加しました。新しくできたう蝕病変の拡大、歯痛の経験、抜歯が歯科治療恐怖症を悪化させる最も大きなリスク要因であるとされています。
Dahlander, A., Soares, F., Grindefjord, M., & Dahllöf, G. (2019). Factors Associated with Dental Fear and Anxiety in Children Aged 7 to 9 Years. Dentistry journal, 7(3), 68.
歯科恐怖症の検査法にはDental Anxiety ScaleとDental Fear Scaleがあります。これらの検査法を用いて高度な歯科恐怖の頻度を調べてみると7.3%~24.3%となり、平均約12%でした。歯科恐怖症は年々増加しているのでしょうか。過去50年間の歯科恐怖の評価スコアを比較してみた結果、経年的な変化は見られず、いつの時代にも歯科恐怖症は存在してきたことになります。性別を調べてみると男性よりも女性に多く見られ、恐怖を感じる器具や処置は、電気メスによる歯肉切除、根管治療、外科的処置、麻酔が効かない状況、抜歯、軟組織の切除の順となりました。また、恐怖心が強い患者の半数が、問題は歯科医師自身に起因すると述べています。
苅部洋行(2019).歯科恐怖を知る ―疫学と原因―.日本歯科心身医学会雑誌. 34. 5-9.