腎の虚証には附子剤や地黄丸類が用いられ、腎の実証に用いるのが竜骨牡蛎剤です。心と腎の陰陽は互いにバランスを取り合っています。すなわち、腎陰は心に陰を供給して心陰を補い、心陽は腎に陽を供給して腎陽を補います。腎の陽が亢進すると心陽が過剰となって心火が生じ、動悸、血圧上昇、不眠、イライラ、パニックが起こります。
竜骨牡蛎剤は腎陽亢進に起因する心火を鎮め、動悸、血圧上昇などの症状を改善します。陽気が頭部に上昇すると、頭痛、めまい、ふらつき、多汗、ほてりが生じますが、竜骨牡蛎剤はこれらの症状に対しても効果的です。
竜骨牡蠣剤には柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝乾姜湯、桂枝加竜骨牡蠣湯があります。実証で精神症状が強ければ柴胡加竜骨牡蠣湯、弱ければ柴胡桂枝乾姜湯を処方し、虚証の場合は桂枝加竜骨牡蠣湯を選びます。腹症では胸脇苦満と臍上悸があれば柴胡加竜骨牡蠣湯、胸脇苦満と臍上悸が弱ければ柴胡桂枝乾姜湯、胸脇苦満がなく臍上悸だけの場合は桂枝加竜骨牡蠣湯となります。
竜骨は恐竜の化石を粉末状にしたものとされていますが、実際には大型の哺乳類などの化石も用いられ、精神安定作用が強く、臍下部の動悸に対して有効です。牡蠣はカキの貝殻を粉末状にしたもので、脇腹の動悸に対して用いられます。竜骨も牡蛎も比重が重いため、上昇した陽気を下げる働きがあります。