三叉神経(trigeminal nerve)とは、顔面の感覚(知覚)と開閉口筋群の運動をつかさどる神経をいいます。眼神経、上顎神経、下顎神経の3本に枝分かれして顔面に広がることから、三叉神経と呼ばれています。
Trigeminal trophic syndrome(TTS)は三叉神経の損傷後、その支配領域に潰瘍が生じる病気です。小鼻(鼻翼基部)に好発し、潰瘍の拡がりと鼻翼基部の欠損が典型的な症状です。三叉神経障害後に持続する違和感や掻痒感のため、皮膚を掻き毟ることから潰瘍が生じるとされています。潰瘍ができる原因として、三叉神経とともに障害を受けた交感神経による血管障害が関係しているという説もあります。
この臨床報告では、前額部の帯状疱疹後に生じた7歳児のTTSに対し漢方薬で完治した治療内容が記載されています。この症例でのTTSについて、中医学的には肝陰虚→肝陽上亢→肝風→煩躁(掻痒感)の順でその発症機序を推測し、肝陰虚に対しては六味丸、煩躁に対しては酸棗仁湯を70日間処方することにより潰瘍が消失し、治療後の再発は認められていません。
篁武郎:六味丸合酸棗仁湯が奏効した Trigeminal Trophic Syndrome の一症例、日本東洋医学雑誌、65,219-223, 2014