滋陰至宝湯は明の時代の医家である廷賢が著した『万病回春』で初めて登場します。当帰、芍薬、白朮、茯苓、陳皮、知母、貝母、香附子、地骨皮、麦門冬、薄荷、柴胡、甘草で構成され、陰虚内熱、肝鬱脾虚に対して処方されます。
陰虚内熱、肝鬱脾虚
陰虚
羸痩、淡白舌、少苔
肺陰虚
乾咳、少痰、黄色粘稠痰
内熱
口渇、口乾、紅舌、ほてり、盗汗、顔面紅潮、便秘
肝気欝結
抑鬱、不安、胸部・季肋部・心下の痞塞感、舌痛、咽喉頭不快感
脾虚
胃腸虚弱、食欲不振、下痢、疲労倦怠
滋陰至宝湯と滋陰降火湯は、いずれも肺陰虚による乾燥性の咳に対して用いられる方剤です。滋陰作用を有する生薬は滋陰至宝湯では陶器、白朮、麦門冬の三味ですが、滋陰降火湯では当帰、白朮、生地黄、麦門冬、天門冬の五味と多くなり、より滋陰作用が強化されています。一方、滋陰至宝湯には理気作用を有する柴胡、薄荷、香附子の三剤が含まれていますが、滋陰降火湯には理気作用を示す生薬は含有されていません。
その相違から滋陰降火湯は乾燥が強い場合に適応され、滋陰至宝湯は乾燥に加えて違和感が強い場合に用いられます。また、滋陰至宝湯は胃に負担がかかりやすい地黄が含まれていないため、長期間の服用が可能です。
乾燥と違和感のある病気にはドライマウス、舌痛症、口腔異常感症、咽喉頭異常感症があり、これらの病気を改善し、よい状態を保つためには滋陰至宝湯が効果的です。