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中枢感作

いつまでも続く痛み

末梢では痛みの原因となるような刺激がなくても、痛みを感じ続ける状態を中枢感作といいます。痛みのない刺激を「痛い」と感じるアロディニアや、弱い痛みを強く感じるハイパーアルゲジアなどは中枢感作が原因で生じるものです。痛み刺激を繰り返し受けた際に痛みが徐々に強くなったり、痛みがいつまでも治まらないのは中枢感作されていることが原因です。

中枢感作は痛み以外の感覚、例えば痒みや冷え、灼熱感、痺れ、違和感なども該当します。舌痛症や口腔灼熱症候群では多様な症状が持続しますが、口の中を虫が這いまわるような感覚をおぼえる口腔セネストパチーも中枢感作が原因で生じるものです。

中枢感作の原因は末梢からの痛み刺激の持続だけではありません。外傷、感染、心理的ストレス、トラウマ、睡眠障害なども原因となります。幼少期の虐待も成人後の中枢感作に関連するという報告もあります。

中枢感作の舞台

脳と脊髄を中枢神経、それ以外の神経を末梢神経といいます。中枢感作はその言葉から中枢神経で生じているように思えますが、実はそうではありません。脊髄の側には脊髄と交通する脊髄神経(末梢神経)が走行し、その間は前根と後根でつながっていますが、後根にあるシナプスで中枢感作が生じています。したがって、中枢感作は末梢神経で生じているのです。

四肢や内臓の感覚、運動を司る神経は脊髄神経を介して脊髄と交通しますが、頭頸部の感覚や運動を司る神経は脊髄を通さず中脳、橋、延髄などの脳幹に直接入ります。口腔・顔面の感覚を司る三叉神経を例にとると、三叉神経節がシナプスでその後は橋に入ります。中枢感作は三叉神経節で起こるため、やはり末梢神経で生じていることになります。

中枢感作の原因は末梢からの痛み刺激の持続だけではありません。外傷、感染、心理的ストレス、トラウマ、睡眠障害なども原因となります。幼少期の虐待も成人後の中枢感作に関連するという報告もあります。

中枢感作のメカニズム

なぜ脊髄後根のシナプスで中枢感作が生じるのでしょうか。それはシナプス間で痛み刺激が伝わりやすくなったり、新たなルートができたり、あるいは下降抑制系の働きが抑えられたりするからです。そのメカニズムは以下の6通りがあります。

1次ニューロンからの神経伝達物質の放出亢進
2次ニューロンの過敏状態と感受性変化
新たな解剖学的ルートの出現
グリア細胞の活性化
抑制性介在ニューロンの脱抑制など下降抑制系の機能減弱
下降抑制系とデフォルトモードネットワークとの機能的結合性の低下

アロディニア

触れただけで痛みを感じる現象をアロディニアといいます。アロディニアが発生するメカニズムには末梢感作と中枢感作があります。けがや手術で体に傷が付くと多量の炎症物質(発痛物質)が産生され、痛みが伝わりやすくなるのが末梢感作です。

痛みが持続すると、引き続き脊髄後角や三叉神経節などのシナプスで中枢感作が生じます。痛みを伝える神経線維はAδ線維やC線維ですが、触覚を伝えるAβ線維が発芽して2次ニューロンにある痛み専用ニューロンに接続してしまうと、触刺激が痛み刺激に変化してしまいます。これを中枢感作によるアロディニアといいます。

グリア細胞

中枢神経系にはニューロンとニューロンの間を埋めるようにグリア細胞(神経膠細胞)が存在しています。グリア細胞にはミクログリア、アストログリア、オリゴデンドログリアなどがあり、それぞれが神経伝達に関与しています。

例えば神経障害、感染、強い侵害刺激、慢性的なストレスがあると、ノルアドレナリン、グルココルチコイドなどの受容体を介してミクログリアが活性化され、各種の炎症物質を放出します。ミクログリアから放出されるTNFα、IL-1β、IL-6、IL-10、神経栄養因子(BDNF)、NO、ATP、プロスタグランジンなどは1次ニューロンからのグルタミン酸やサブスタンスPなど痛みの神経伝達物質の放出を促進し、2次ニューロンの膜電位を上昇させます。

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