現代の西洋医学では、身体に生じる症状や病気を部位別あるいは臓器別に捉えるのに対し、精神と肉体を一体とみなした「全人的治療」を行うのが漢方医学です。漢方という言葉は、従来の日本の医学を西洋医学と対比するため江戸時代中期に名付けられたのが所以で、西洋医学とは違って人間をグローバルに捉え、個人の生活改善と体質改善を目的に病気を予防しようとする方法です。従って、実際の診療では患者様の自覚症状を重視したうえ、あらわれた症候をよく観察して「証」を決定し、治療に生かしていきます。たとえば、舌診では舌の大きさや舌苔の有無、色が赤いか、薄いか、また水分状態など全体的に舌を観察したうえで、さらに体質は暑がりなのか、あるいは冷え性なのかをポイントに診察を行います。つまり、患者様の体質に合った最適な漢方薬を用いたオーダーメイドの治療を行うことができるのです。
また、漢方薬は多成分系の薬物(植物、一部の動物や鉱物など)の組み合わせからできていることが特徴です。つまり、消化液で代謝される成分や胃酸で壊れる成分、腸内細菌によって代謝を受けるもの、あるいは体内に吸収されずにそのまま排泄されるものなど、作用の異なるたくさんの成分を含んでいます。従って、半健康状態から慢性病までの幅広い症状に対応することが可能です。そのため、病名が違っても同じ漢方薬を用いる場合もあります。最近では、生薬を煎じて濃縮し乾燥させたアルミパック入りのエキス剤が医療用漢方製剤として普及しており、煎じる手間も不要で飲みやすいと好評です。