外見は本物の薬と同じなのに、薬としての薬効成分が全く入っていないものを偽薬といいます。何の役にも立たないものが作られていることに疑問を持たれそうですが、実際に使用されています。
偽薬は治療ではなく、新しい薬の効果などを調べる治験の場で活用されます。効果を試したい薬と偽薬の双方を比較し、試したい薬に効果が認められた場合は偽薬の存在が有用となるのです。
偽薬は効果ゼロ、試したい薬は100となりそうですが、実際はそうではありません。偽薬にもある程度の治療効果が現れるからです。
「この薬を飲めばよくなる」と思って飲むと、それだけで効果を発揮する現象を「プラセボ効果」といいます。逆に、偽薬を飲んでも副作用が出現することを「ノセボ効果」といいます。これらの効果にはエンドルフィン、ドパミン、カンナビノイドといった神経伝達物質が関与することが判明しています。
また、患者と治療者の関係が良好であるとプラセボ効果が出やすくなります。逆に治療者に対して不信感がある場合は、ノセボ効果が出やすくなります。病気を治すためには薬を飲む必要があるが、何となく飲みたくないという心理的葛藤がある場合もノセボ効果が出やすくなります。
手術のプラセボ効果
プラセボ効果は主に薬物療法で見られますが、ハリ治療でも確認され、手術によるプラセボ効果も認められています。手術による効果を調べるために、動物実験では陰性対照として偽手術(シャムオペ)といわれる麻酔、切開、剥離、縫合をするグループと本当の手術をするグループを設けます。
この偽手術をヒトに対して実際に行った研究もあります。骨関節炎患者に関節鏡下郭清術(デブリドマン)、関節鏡下洗浄術(関節洗浄)、偽手術を行った3グループの治療結果を比較しました。その結果、いずれのグループも症状が改善し、効果は2年後にも持続し、3グループ間の効果に差異は認められませんでした。偽手術の効果は特異的効果ではなく、まさにプラセボ効果といえます。
Moseley, J. Bruce, et al. “A controlled trial of arthroscopic surgery for osteoarthritis of the knee.” New England Journal of Medicine 347.2 (2002): 81-88.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa013259