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 ラケット

あなたは20歳の女性です。ある日、家の近くの道を歩いていると、向こうから見知らぬ男性が近づいて来て突然あなたに殴りかかり、そのまま走り去っていきました。殴られた拍子に上顎前歯に入れていたセラミックの歯が取れてしまいました。

このとき、あなたはどんな気持ちになるでしょうか。ある人は理由もなく殴られたことが悔しく、はらはらと涙を流すでしょう。なぜ殴られたのか理解できず、頭の中が疑問符でいっぱいになって混乱する人もいるに違いありません。本物の歯ではなく、セラミックの歯を入れていたことが道行く人にばれてしまうことを心配する人もいるでしょうし、外れた歯が元通りになるかを心配する人もいるかもしれません。

とはいえ、このような「悔しさ」「混乱」「恥ずかしさ」「心配」などの感情は本当の感情ではなく偽物の感情なのです。本物の感情は「怒り」のはずです。突然殴ってきた男性に対する「怒り」を表情や態度で表すのが自然な反応なのに、別の感情を感じて別の表現をするのはなぜでしょう。交流分析の理論では、幼少期に「怒り」を感じたり示したりすることを禁じられると、このような偽物の感情にすり替えられてしまうと説明しています。このような偽物の感情を「ラケット感情」といいます。

子どもの頃、あなたは怒りを他の感情にすり替えることによって親からの愛情をより多く得ていたのです。こうして形作られた脚本に沿って行動することを「ラケット」といい、そのときに味わう感情が「ラケット感情」です。幼少時に有効であったラケットも成長するにつれて色褪せ、「成人」の立場からより適切な感情を抱いたり行動したりする代わりに、しばしば懐かしいラケットを繰り返してラケット感情を味わいます。

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