日常生活において、私たちの3人に1人は頭部や顔面、あるいは首や肩などの頚部に痛みを感じているといわれています。これら顔面を含めた頭頚部に生じる痛みを総称して「口腔顔面痛」といい、その多くがストレスや心理的葛藤によって生じた顔面の筋肉の痛み(筋筋膜痛)であることがわかっています。たとえば、緊張した状態が長く続いて身体に力が入ると上下の歯を噛みしめるクセがつき、やがてはアゴの痛みや違和感、肩こりなどの症状に悩まされることになります。しかし一方で、顔面痛には多種多様な症状と原因が存在し、中には脳神経の異常や心筋梗塞など決して見逃すことのできない病気の一現象を示すケースもあるため、十分な注意が必要です。
口腔顔面痛は、原因別に大きく7つに分類されます。まず口腔内に病変がある場合、顎関節や咀嚼筋などに原因がある筋骨格性の痛み、目・鼻・耳など口腔周囲に病変がある場合、頭蓋骨の中(頭蓋内)に病変がある場合、また三叉神経痛や持続的神経痛などの神経性、片頭痛や脳内出血などによる神経血管性、そして心理的・感情的要因によって起こる心因性のものがあります。
口腔顔面痛の特徴は、その原因が多岐にわたることです。神経の病気や外傷、感染が原因の場合もあれば、身体の他の部位に原因があり、その影響で痛みが生じる場合もあります。また、原因不明のケースが多く見られるのも口腔顔面痛の大きな特徴といえるでしょう。加えて、口腔顔面痛にはズキズキする鈍い痛みが続く場合と激しい痛みが走る場合とがあり、たとえば近年増え続ける顎関節症では慢性的な痛みのほか、感覚の異常などを訴えるケースが多く見られます。
また、精神疾患の一症状として口腔内の異常を訴えるケースも少なくありません。これは脳の中の「痛みを感じる部分」と「感情をコントロールする部分」が非常に近接しているため、感情が痛みの感じ方に大きな影響を受けるということです。事実、うつ病と慢性的な痛みは深く関わっているといわれています。たとえば、落ち込んで気分が沈んだりストレスがかかると痛みは悪化する傾向にあるほか、疲労を感じると神経系統が過敏になってホルモンバランスが崩れ、不快感や痛みが増幅します。これらの現象は疲労物質の蓄積によって体調が維持できなくなり、免疫力が低下して病原体に対する抵抗力が弱まるために、細菌感染などによる疼痛(ズキズキとうずくような痛み)が起こりやすくなることを意味しています。
このように、口腔顔面痛では痛みの原因や痛みのタイプ、そして痛みを感じる部位にいたるまでが多種多様であるため、個々の社会的背景を含めた複雑な要因を考慮した治療が必要となります。