子供時代の歯医者像とは1
その直感の根拠を探るとき、さまざまな場面が心に浮かびます。中でも大きいのが子供のころの歯医者体験です。私が生まれ育った京都府船井郡園部町(現在の南丹市)は京都駅からSLに乗って1時間半程度の位置にあり、人口は約1万5千人です。町には3軒の歯科医院がありましたが、そのうちの一軒が私の家の裏隣に立地していました。当時は人口に比べて圧倒的に歯医者が少なかったため、早朝から夜まで終日混み合っており、3時間以上は待たないと診てもらえません。子供の虫歯の治療は短時間で終わるものの、待ち時間の長さにはいつもうんざりしていました。歯が痛くなると、「また長い間待たされるのか」とゆううつになったものです。
近視や中耳炎、小児喘息などとは無縁な子供時代をおくったため、他の医者にかかった経験はほとんどなく、予防接種や風邪でお世話になる小児科はそれほど待つこともありませんでした。町に救急病院が2件あったので、おそらく歯医者以外の医者は不足していなかったのでしょう。そんな背景の中、高3当時は歯科が2軒に減って状況がさらに悪化していたため、町で医院を開けば喜んでもらえるだろうと考えました。これこそが、私の一番の志望動機だったのです。
後日談ですが、私が歯学部を卒業して大学院で研究している間に故郷の町では歯科の開業ラッシュが起こり、短期間で7~8軒に増えました。しかしながら、新しい医院の院長は他地域の出身者だったこともあり、高校生当時の私には町で歯医者になる人がやがて出現するという事実を知る由もなかったのです。これでもはや「町の人たちのために」歯科医院を開く必要はなくなり、母校と提携を取りやすい茨木市で開院することになりました。
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