北京、チベット編
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大陸とは元来、アメリカ大陸やアフリカ大陸などスケールの大きないわゆる五大陸を表す地理用語です。しかし、例えばイギリス人にとって大陸といえば、言うまでもなくヨーロッパ大陸でしょう。そこには、確固たる地理的親近感があります。では、私たち日本人にとっての「大陸」とは?遠く古から、時代を経て中国をそう呼んだのです。
大陸には、島国日本にはない独特のスケール感があります。360度の視野を叶える砂漠や草原、高原が遥か遠方に薄いラインを描く地平線まで続くイメージです。その観点からいえば、ここ中国はまさに一大陸でしょう。広大な砂漠、草原、高原が確かにあります。シルクロードのタクラマカン砂漠、モンゴルの大草原、チベット高原。いうまでもなく、これらは外国人のみならず中国人にとっても人気の観光スポットであり、遠大な国土を持つお国柄から、容易に近づける場所ではないという事実がその魅力を一層引き立たせているのでしょう。
そんな大陸・中国の顔ともいえるシルクロードに学生時代訪れ、敦煌やトルファン、ウルムチを回ってから、はや
30年が経とうとしています。二つ目の顔、モンゴルの大草原には2012年の第9回アジア予防歯科学会で訪れ、学会後は壮大なゴビ砂漠を4WDに揺られて旅しました。そして、残されたチベット高原へもとうとう訪れる機会がやって来ました。2014年9月、北京で開催された第10回アジア予防歯科学会。シンポジストとして招待された学会を無事終えた後、標高5000mを超える山道をひた走る青海チベット鉄道に乗り、念願のチベットを旅する機会を得たのです。積年の夢を乗せた理想郷への旅。ですが反面、大きな不安も抱えていました。実はシルクロードとモンゴルで、自然環境の厳しさから体調を崩した苦い経験があるのです。シルクロードの敦煌では莫高窟へ向かう乗り合いバスの中で熱射病のため意識を失い、モンゴルのゴビ砂漠では食中毒で一晩中猛烈な腹痛に襲われて病院で何本もの点滴を受けています。しかも、チベットには高山病が付き物です。今回もあの悪夢が再現してしまったら・・。
不安の種はこれに尽きません。出発前に開催される学会でシンポジストとしての講演があり、さらに別のシンポジウムで座長を務めることが決まっています。しかし、シンポジウムでの講演も座長も私にとっては人生初体験。しかも、不慣れな英語を使いこなさなければなりません。イントネーションの美しいクイーンズ・イングリッシュならともかく、インドや中国の「ご当地英語」は聴き取りにくいものです。会場から予想外の質問が飛び出したとき、その変化球に上手く対応できるだろうか。しどろもどろになって立往生する自己像、これもまた悪夢です。
「人生初」が三つも待ち構える清水の大舞台。ですが、もう飛び込むしかありません。それではまず、アジア予防歯科学会の様子から話を進めていきましょう。