舌の色調分析
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2011年7月9日、10日に京都市国際交流会館で第2回日本口臭学会学術大会が開催されました。口臭を科学する」という
テーマに沿った特別講演やシンポジウムが相次いで催されました。私前身である口鼻臭研究会から7年連続で参加していて、
今年も日々の研究成果をまとめて発表しました。私の発表は一般演題の6題目、つまり最後の演者でした。演名は「Lab色空間を用いた舌の色調分析」といい、舌が白くなると口臭が強くなるものなのか否かについて調べた発表です。患者様は舌が白いことをとても気にされる傾向にあり、「こんなに舌が白いのだから相当ひどい口臭が発生しているに違いない」などと確信したように訴えられる方もいらっしゃいます。では舌が白いことと口臭の発生の間には、本当に関連があるのでしょうか。
実際に舌が白い、赤いなどと色で判定することはかなり難しい課題です。そもそも正常な舌は淡いピンク色でその表面は舌乳頭で覆われ、うっすらと白くなっているものです。このように舌は本来表面が白いものですが、本来の白さを異常な白さであると認識して悩んでいる患者様が多いのです。確かに白く厚い舌苔が舌の表面にびっしりと付着している方もいらっしゃいますが、口臭外来を尋ねてこられる患者様の中にはこのような舌はほとんど見当たりません。自分の舌の白色が異常なのか正常なのかを正しく判断することは難しいことですが、体重や血糖値のように数字で表すことができれば、舌の色を客観的に認識することができます。
今回の私の研究では舌を写真に撮り、コンピューターでその色を数値化する方法を開発しました。舌の10か所を測定して舌の白さを数値化し、赤味や黄色味も同時に判定しました。さらに口臭の強さも同時測定し、口臭治療の前後における舌の色の変化を計測しました。これにより舌が白いと口臭が強いのか、また口臭が改善すれば舌の色も
きれいになるのかという疑問に対して、回答を得ることができました。その結果を紹介しますと、次のような点が明らかになりました。
・舌の中央部分が最も白かった
・舌の先が最も赤かった
・黄色味は舌のどの部分においても違いが比較的小さかった
・舌の白さと口臭の強さの関連性は比較的小さかった
・舌の白さとの関連が比較的強いのはガムを噛んだときに出る唾液量(刺激時唾液量)だった
・口臭治療により口臭は自覚的にも他覚的にも改善した
・口臭の改善にもかかわらず、舌の白さに変化は見られなかった患者様の直感とは異なる結果でした。すなわち、舌の白さと口臭との関連はあまりなかったのです。また、口臭治療によって口臭はめでたく改善しても、舌の色は一向に変化を見せていません。人間の常識的な感覚や定説は正しい場合もあるのですが、調べてみれば実はそうではないということもあり、今回の結果は後者となりました。今回は一つの科学的事実を明らかにすることができたという点で、意義のある研究となりました。とりわけ舌の色を客観的に判定する方法を確立できたということは、私の研究生活において貴重な一歩であったと考えています。
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発表風景