「水が甘い」

読書・趣味・家庭 2020年12月28日

味覚障害の患者さんをときどき診察しています。「何も食べていないのに酸っぱい味がする」「苦い味が異常に強く感じられる」「全体的に味がわかりにくい」などと症状はさまざまですが、甘いと苦にする人は少ないので興味深く読みました。
水が甘いと苦にする女性患者に対して、中井吉英先生は水道水をコップに入れ、患者と一緒に味わってみました。すると不思議なことに水が甘いことがわかりました。このことから深い共感が生まれ、受容、病態説明を通じた治療的自我が発揮され、初診時に治療終結となりました。家族が糖尿病を患っていて、味覚異常のポジティブな意味の気づきもありました。その後、中井先生は素材の持つほのかな味をよく感じ取れるようになったというエピソードも紹介されています。
この本には詳しく記載されていませんが、味覚に注意が集中することによる感覚の鋭敏化があり、これに末梢感作や中枢感作も加わっていたのでしょう。反芻や拡大視といった心理的機序も働いていたのでしょう。病態説明に続くリフレーミングで解決しました。

「水が甘い」