『居酒屋』
フォークナーの作品群はミシシッピ州にある架空の町「ジェファーソン」を舞台にし、登場人物は別々の作品に何度も顔を出します。これはバルザックの『人間喜劇』でも同様です。エミール・ゾラも一つの家系の人物を主人公として、『ルーゴン=マッカール叢書』という全20巻の小説にまとめました。
『居酒屋』は第7巻に当たり、洗濯女のジェルヴェーズを主人公として、パリの貧しい庶民の日常を描いています。酒飲みは酒を飲むことが人生の全ての目的となり、貧乏人は貧乏ゆえに働く意欲を失くしています。弱い立場である女や子供は常に虐げられ、殴られ、最後は殴り殺されたり、衰弱して死んでいったりします。
話の筋を簡潔に述べるとすればこのようになるのですが、登場人物達にほとんど悲壮感はありません。教育がないためなのか情報がないためなのか、貧乏も、中毒も、虐待も、病気も、全てあるがままに受け止めています。