自転車泥棒
質実剛健な昔の自転車にまつわる物語です。著者であり、主人公でもある「僕」は旧式の自転車「幸福印の鐵馬」を集めるマニアです。行方をくらました父が乗っていた鐵馬を探すことがこの小説のメインの筋です。そこに旧日本軍のマレー進軍やインパール作戦、空襲に備えて殺されかけたゾウ、本物の蝶の羽を使った張り絵などのエピソードが織り交ぜられています。
高砂族の日本兵がビルマで輜重部隊に属し、山岳地帯での物資の運搬にゾウを使いました。国民党軍の謀略でゾウが奪われ、中国各地を移動して、国民党軍とともに台湾に辿り着きました。国民党軍でゾウ使いとなった中国人も台湾に辿り着き、高砂族の兵士と同じ台湾の山中に暮らすようになりました。台湾、マレー半島、ビルマ、中国を経て敵兵同士が台湾に終結する歴史物語は、日本本土の戦中戦後史にはない複雑さを帯びていました。