『フラニーとズーイ』

その他 2020年09月30日

サリンジャー好きの村上春樹が訳した小説で、連作小説『ナインストーリーズ』の4作目です。フラニーはフランシス、ズーイはザカリーの愛称です。フラニーは7人兄弟の末娘で演劇を専攻する20歳の大学4年生、末弟のズーイは25歳の俳優です。7人兄弟はいずれも神童で、みな飛び級をして名門大学に入っているようです。
ズーイの長広舌はカフカを思わせますが、カフカが登場人物に延々と真理のようなものを語らせるのとは違うことが最後まで読んでようやくわかりました。神童は神童なりに深く悩み、哲学や宗教に逃げ込んでしまいます。ズーイはフラニーを救うために精一杯話し続けたのでした。
村上春樹はゆっくりと時間をかけて何度か読むことを進めています。「丁寧に描き込まれた印象的な細部には、思わず心を奪われてしまう。いたるところに、そのあらゆる隅っこに、まるでだまし絵のように隠喩が潜んでいる」からです。
「言葉が持つ力」の大きさがよくわかる作品です。神童たちが語ったり、書き記したりする哲学や宗教はどれも興味深く読めます。難解ですが。数学や物理学も出てくればもっとよかったのですが、作者のサリンジャーにそこまでの力はなかったようです。

『フラニーとズーイ』