『精神科医はどのように話を聴くのか』
患者の話を「聴く」ということは診断や治療のために必要というだけではありません。患者の悩みや不安、苦しみを聴いて受容し、共感することにより、患者―医療者間の信頼関係を築くことができます。聴くという行為自体が治療効果を持つ場合もあります。カウンセリング療法や簡易精神療法でいう「傾聴」のことです。
この書物ではそのような傾聴の意味だけではなく、寧ろ診断のための「問診」の要素が多くを占めます。問診とは単に患者の話を尋ねることではなく、その訴えから考えられる幾つかの病気を念頭に置き、それらの病気の有無や鑑別が行えるように系統立って進めていく医療行為です。
うつ病(大うつ性障害)の急性期や躁うつ病(双極性障害)、パーソナリティー障害、せん妄、昏迷など、初診時に必要とされる問診が思うようにできない場合や望ましくない場合などについても言及されています。患者の話を延々と聴いたり、治療と直接関係ない話を聴いたりすることは患者―医療者関係を悪化させることになり望ましくないことであると断言されています。我が意を得たり、です。