『人間の絆』
中学時代にサマセット・モームの「女ごころ」を読んだのですが、乱読名の中の1さっつという感じで、特別な印象は残っていません。50台ともなると作家の意図もそれなりにわかってきたようで、『月と6ペンス』『人間の絆』と結構楽しめました。
この小説は「人生の意味」について問いかけています。私も11,12歳頃にかなり考えました。受験して京都市内の中学に入るとその疑問も徐々に解け、その後は冷戦時代の世界の行く末について心配するようになり、大国の外交や軍事に関心が移りました。
「人生に意味などない。この地球、宇宙をめぐる恒星の一惑星に、その歴史の一時期の環境的条件のもとで生命が誕生した。そのとき芽生えた生命は、その条件が変われば、潰えてしまう。人類も、ほかの生命体同様に意味のない存在であり、それは創造の頂点で生まれたのではなく、ある環境への自然な反応として生まれたのだ」
中国の皇帝の問い
「人間の歴史を知りたい」
中国の賢者
「人は生まれ、苦しみ、死ぬ。人の生に意味はなく、なんの目的もない。人は生まれようが生まれまいが、生きようが死のうが、それ自体なんの意味もない。生は無意味で、死は何も残さない」
「なにかをする必要もなければ、したところでなんの益もない。やりたければ、やればいい。人生の多くのことから、行動や感情や思考などすべてのことを素材に模様を描くことができる。それは整然としたものかもしれず、美しいものかもしれない。それは本人が勝手に選んだ幻想にすぎないかもしれないし、月の光を織り込んだ夢想かもしれないが、それはどうでもいい。そうみえるのだし、本人にとってはそれが現実なのだから。人生という縦糸―どこの水源からともなく湧き出て、どこの海へともなく滔々と流れる河のようなもの-のなかにいても、意味もなければ重要でもないと考えれば、好きな横糸を選んで思い思いの模様を織り上げることができる」