『薬草まじない』

その他 2020年07月15日

アフリカを舞台にした小説はいくつか読んだことがありますが、アフリカ人が書いた小説を読んだのはこれが初めてです。著者はナイジャリア人でヨルバ族の小説家で、電化製品の行商人でもあります。
大学を卒業した春休みにヨーロッパからジブラルタル海峡を船で渡り、アフリカに渡りました。港を出てモロッコのタンジェの町に入ると、今まで経験したことのない別世界が広がっていて、自分だけが孤立しているように感じ、めまいがするようでした。
この作品も今まで読んだことも聞いたこともないような世界が広がっていました。おそらくアフリカとはこのような社会、風土、精神世界なのでしょう。
町の住民であり、野生の動物の狩りをする主人公は不妊の妻に子宝が授かるようにと旅に出ます。「さい果ての町」に住む「女薬草まじない師」が作る薬をもらうためです。数年にわたる旅は危険なジャングルに住む「悪鬼」「聖霊」「神」に襲われ、命を懸けて戦います。アフリカ人が持つ、ジャングルに対する恐れや別のトライブに対する警戒心が反映されているようです。
主人公は一人で旅しますが、第一の<心>、第二の<心>、<記憶力>、<第二の最高神>が心の友です。主人公自身の心のうちはほとんど描写されない代わりに、これらの人格が登場し、不思議な心理描写が繰り広げられます。

『薬草まじない』