村上春樹
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という小説は世界の終り、ハードボイルド、ワンダーランドの三つが読点と中黒で結ばれていて関係がわかりにくいのですが、「世界の終り」という想像の世界と「ハードボイルド・ワンダーランド」という現実世界の話が交互に進みます。
他の作品もそのようですが、この作品も村上春樹の人間関係や経験、世界観が反映されているそうです。主人公の「僕」「私」それと「俺」は村上春樹を模しているようですが、かなりクールで達観した性格です。ユゴーやカフカ、ドストエフスキーの登場人物は胸中を赤裸々に語り、煩悶してじたばたするさまが描かれますが、この作品にはそのような苦悩はほとんど表現されていません。
自分や自分の周りの人間模様を描こうとするのに自分のことを語らない理由は何なのでしょうか。自分の考えや悩み、問題意識、思想、空想、願望、人間関係、世界観を表現したくて小説家は小説を書くのではないのでしょうか。村上春樹という人は何のために小説を書くのでしょうか。