南イタリアの百姓の暮らし
宮本常一の『忘れられた日本人』、柳田国男の『遠野物語』、シオドーラ・クローバーの『イシ―北米最後の野生インディアン』はいずれも今はなき人々の暮らしを克明に描いたノンフィクションの名作です。しかし、聞き書きでは臨場感に今一つ欠ける点があります。
『キリストはエボリで止まった』はカルロ・レーヴィが実際に滞在したアリアーノ村を舞台にした自伝的小説であり、創作的要素が加わっています。その分、貧しい中でも力強く生きる百姓たちが生き生きと描かれています。
トリノの裕福な家で育ったカルロ・レーヴィが貧しい人々と身近に接したのには理由があります。反ファシストの政治活動の中心人物だったカルロ・レーヴィは捉えられて拷問を受け、バジリカータ州への流刑を受けたのです。村に到着すると百姓たちは大学で医学教育を受けた医師を歓迎しました。マラリアが蔓延する地方で、人々は医療を受けられずに苦しんでいたからです。貧しい家に呼ばれては患者に寄り添う経験を重ねました。
画家として風景画を描いていると、子ども達が周りに集まって制作作業を見守り、手伝いました。文化人、政治家として、町の支配層と交流する機会もありました。