没企画
ご想像の通り、テレビ出演は大変な負荷を強いられます。前述の「おはよう朝日です」はその最たるもので、まさに身も細る思いの連続でした。今すぐどこかへ逃げられたら。いっそのこと中国やインドにでも高跳びしてしまおうか。本番前はそんな思いに駆られたものです。しかし医院経営者として一研究者として、テレビに出演できることは得難い経験であり、長年培ってきた専門知識が不特定多数の人々の役に立つことは、筆舌に尽くせぬ感銘であり名誉なのです。まさにマス(大衆)・メディア(媒体)の持つ威力というべきでしょう。日々の診療で私が救える人数は限られますが、電波や活字の特性を利用することで桁違いの人の人生を変えられるとしたら、それは私にとって無上の喜びといえます。マスコミに限らず、ホームページやメール相談などを通して、今後も積極的に情報の発信を続けていくつもりです。
前の4回から今回までの5年間、実はテレビ局から何度も問い合わせがありました。『さんまのからくりテレビ』、『鉄腕ダッシュ』、再度『鉄腕ダッシュ』、『わりさん』から体や病気に対する疑問点について答えて欲しい、アイデアを出して欲しいと再三にわたって問い合わせがあったのです。しかし、いずれも難題ばかりで、テレビで紹介できるような回答やアイデアも浮かばぬまま、立ち消えになっていました。今回の「チーズ特集」出演後も、即NHKから問い合わせの電話がありました。
そんな中で一番の心残りは、テレビ朝日の『スーパーJチャンネル』からドライマウスの特集の話が来たときのことです。
ドライマウスの解説に加え、この病気で苦しむ患者さんの日常生活を取材して紹介したいという内容でした。取材に応じてもらえる患者さんを探すべく、通院中の患者さんたちに協力を依頼してみたものの、どなたからも色よい返事はいただけません。そんなわけでこの企画は流れてしまいましたが、考えてみれば当然のことでしょう。そもそも病気とは人間の負の部分であり、プライバシーを人前にさらすなど誰だってしたくはないのです。テレビ番組で病気や失業、いじめ、差別などの問題の体験者が登場することがありますが、その実現の背景には相当な苦労や葛藤があったに違いありません。